2026年8月26日の朝、ネパール北部ラスワ郡と中国チベット自治区の国境地帯を、突発的な大規模洪水と土石流が襲いました。国境の橋や道路が流され、巡礼や旅の途上にあった多くの人が巻き込まれ、いまも大勢の安否が分かっていません。亡くなられた方に深く哀悼を捧げ、安否の分からない方々のご無事をお祈りします。
この記事では、現地に滞在中の方、ご家族・ご友人が渡航中の方、そしてこれからネパール方面への旅を控えている方のために、いま分かっていることと確認先を1本に整理します。救助・捜索に関する一次情報は現地当局・外務省・大使館の発信が正となります。本稿はその入口をまとめるものです。
何が起きたか

8月26日午前8時30分ごろ(現地時間)、ネパール北部ラスワ郡を流れるボテコシ川(トリスリ川上流)の水位が突然かつ急激に上がり、土砂を巻き込んだ濁流が渓谷を駆け下りました。被害は中国側のチベット自治区ギロン(キロン)県にも及び、両国を結ぶ陸路の要衝ラスワガディ国境では、国境のミテリ橋や検問所の施設が流失。周辺では道路・橋・水力発電所にも大きな被害が出ています。
ネパール警察は28日までに、死者が389人に達したと発表しました。道路や橋が広範囲に流されて捜索・救助は難航しており、数字はなお増える見通しです。行方不明者は1,000人を超えるとの報道があり、そのなかには32か国・500人以上の外国人が含まれます。安否の分からない人の多くは、この国境を経由してチベットのカイラス山・マナサロワル湖へ向かう巡礼ツアーの参加者でした。国境施設で勤務していた警察・税関の職員にも安否不明者が出ています。数字は集計主体により幅があり、いまも更新が続いています。
発生当時、ラスワ郡周辺に大雨は観測されていません。上流約20キロの地点で氷と土砂が川を堰き止めていた痕跡が衛星画像で確認されており、米国地質調査所(USGS)はこの崩落に伴う揺れをマグニチュード5.2相当の地震動として記録しています。国際総合山岳開発センター(ICIMOD)の専門家も、氷河から崩れ落ちた氷と岩が川を堰き止め、一気に決壊して濁流が下ったとの見方を示しており、氷河の崩落に起因する災害との分析が有力になっています。
日本人については、在ネパール日本国大使館が27日、現地のツアーに参加していた日本人5人と連絡が取れていないことを明らかにし、ネパール当局に捜索・救助を要請しました。現地に渡航中のご家族・ご友人と連絡が取れない場合の相談先は、後の節にまとめました。
ネパール当局は30日、死者が734人以上、行方不明者が約2,500人に達したと発表しました(ネパール警察の集計では死者768人とする報道もあります)。行方不明者のうち外国人は29日時点で589人。中国側でも16人の死亡が確認され、546人の安否が分かっていません。安否の分からない人には、国境周辺の水力発電所で働いていた人たちも多く含まれます。「連絡が取れない」には道路と通信の途絶で確認が届いていない人も含まれ、集計はいまも更新が続いています。
原因について、米国地質調査所(USGS)は、ランタン国立公園内の高所斜面で氷河を巻き込んだ大規模な崩落(土石なだれ)が起き、その衝撃がマグニチュード5.2相当の地震動として世界の地震計に記録されたと説明しています。約3時間後にはM4.2相当の二度目の揺れも記録されました。崩れ落ちた氷と岩はボテコシ川の支流レンデ川に流れ込み、氷が摩擦と衝撃で急速に融けて水と土砂を巻き込みながら約100キロを流れ下ったとみられています。衛星画像の分析では、氷河だけでなく山体の岩盤そのものの一部が崩れた痕跡が確認されています。高所の永久凍土の融解が斜面を不安定にした可能性が指摘されていますが、原因の特定にはさらに調査が必要とされています。
連絡が取れていない日本人5人は家族とみられ、26日朝に中国側から国境を越えた直後、ネパール人運転手とともに消息が分からなくなっています。30日時点でも安否は確認されていません。外務省は在留届・たびレジで届け出のある滞在者の所在確認も進めており、半数超から無事との返信があったとしています。
救助と支援の動き
8月30日 追加ネパール政府は被災地域を3か月間の災害地域に指定し、軍・武装警察・警察あわせて1万人規模を投入して捜索・救助にあたっています。ネパール国家災害リスク軽減管理庁(NDRRMA)によると、30日までに救助された人は8,100人を超えました。ネパール軍だけでも30日朝までにヘリと地上部隊で2,697人を救助し、そのうち216人が外国人です(インド121人・中国72人・韓国15人など。日本人は含まれていません)。救助拠点はティムレ、シャブルベシ、ドゥンチェ、マイルンなど渓谷沿いの集落に置かれています。中国側でも800人規模の救援部隊が入り、両国が衛星画像を共有して捜索を進めています。
危険はまだ続いています。土石流が川を堰き止めてできた「堰止め湖」が28日に越流し、両国はいったん救助活動を中断しました。下流の水位上昇は0.6メートルほどにとどまり、当初恐れられた規模の二次洪水にはならずに活動は再開されましたが、30日未明にも大雨で発電所のトンネル捜索が一時中断するなど、雨のたびに作業が止まる状況です。ネパールは9月までモンスーン期にあり、当局は流域への立ち入りを控えるよう呼びかけています。
日本政府は28日、ネパール政府の要請を受けてテント・毛布・プラスチックシート・スリーピングパッド・ポリタンクの緊急援助物資の供与を決め、JICAのシンガポール倉庫からカトマンズへ輸送しています。あわせて外務省の海外緊急展開チーム(ERT)2人を現地に派遣し、28日から大使館とともに邦人の安否確認にあたっています。米国・英国・インド・オーストラリア・カナダ・韓国・UAEなども資金や物資の支援を表明しました。
影響が出ている地域とルート

被害はトリスリ川(ボテコシ川)流域——ラスワ郡を中心に、下流のヌワコート郡・ダーディン郡——と、中国側の国境地帯に集中しています。
- カトマンズとチベットを結ぶ陸路(ラスワガディ〜ギロン)は寸断されました。この道はカイラス山巡礼の主要ルートにあたり、復旧まで陸路経由のツアーは行程変更・催行見合わせが見込まれます
- カトマンズ市街、ポカラ、エベレスト街道方面など主要観光地での直接の被害は、本稿時点で報じられていません。ただし救助活動に伴う規制や、発電所被害の影響が周辺に及ぶ可能性はあるため、現地の最新発表をご確認ください
- ネパールは例年6月から9月がモンスーン期にあたり、山岳部では雨期の間、道路の寸断や川の増水が起きやすくなります。この時期に山岳ルートを含む旅程を組むときは、現地発表を前提に余裕を持たせておくと安心です
- ラスワガディ〜ギロンの陸路は再開の見通しが立っていません。国境施設・橋・税関はいずれも失われ、中国側のギロン口岸も損壊しました。ネパール政府の集計では、流失・損壊した橋は30〜40か所、道路は40キロ前後にのぼります
- ランタン方面の玄関口シャブルベシへの道路(トリスリバザール〜ベトラワティ〜ドゥンチェ〜シャブルベシ)も大きく損壊し、車両では到達できません。ベトラワティからラスワガディまでの道路はほぼ全区間が流されており、ランタン谷・ゴサインクンド方面のトレッキングは当面、入山ルート自体が使えない前提で考えてください
- カトマンズとポカラを結ぶプリトビ・ハイウェイは、増水と土砂で一時通行止めになったのち28日夜に再開しました。雨が続けば再び止まる可能性があります
- トリブバン国際空港(カトマンズ)は通常どおり運航しています。発電所被害(約430メガワット分が停止)による電力供給への影響が周辺に及ぶ可能性はあるため、現地の最新発表をご確認ください
現地に滞在中の方・ご家族が渡航中の方へ
現地に滞在中の方は、当局・宿・ツアー会社の指示に従い、増水した川沿いや被災地域へは近づかないでください。そのうえで、以下の窓口を控えておいてください。
- 緊急番号:警察100/消防101/救急102。救急102はNGO「ネパール救急車サービス」の番号で、外国人は無料・英語可(カトマンズ市内中心)です。カトマンズにはツーリストポリス1144もあります。受診の入口や大使館の連絡先は海外で体調を崩したら(ネパールの節)にまとめています
- 在ネパール日本国大使館(カトマンズ):+977-1-4426680。邦人向けの安全情報・安否確認の窓口となります。滞在中の方は、たびレジ(3か月未満)または在留届の登録を済ませておくと、緊急時の情報配信と安否確認の経路になります
- ご家族・ご友人が渡航中で連絡が取れない場合は、ツアー参加なら、まず申し込んだ旅行会社の緊急連絡窓口へ。あわせて在ネパール日本国大使館、または外務省領事局(海外邦人の安全に関する相談窓口)に相談できます
- 旅先で災害に遭ったときの行動の順と、大使館・保険・旅行会社の役割分担、旅程の組み替えと費用の扱いは海外で被災したときはにまとめています
これから渡航を予定している方へ
- 予約済みのツアーがある場合——特にカイラス方面・ランタン方面など今回の被災地域に関わる行程は、催行可否・行程変更の判断を旅行会社の案内で確認してください。会社発表と、外務省海外安全ホームページの危険情報・スポット情報が判断の土台になります
- 個人手配の場合、陸路国境や山岳道路を含む行程は組み直しを前提に考えてください。カトマンズの空港の運航への影響は本稿時点で報じられていませんが、出発直前に最新の運航情報をご確認ください
- 海外旅行保険は、治療・救援費用の補償内容を確認して加入してください。山岳地帯では救助・搬送に大きな費用がかかることがあり、救援者費用の補償が支えになります
- 出発前の確認先を1つに絞るなら、外務省海外安全ホームページのネパールのページです。あわせて、たびレジ登録と大使館発信の確認をおすすめします
ラスワ郡(ランタン・ゴサインクンド・チベット国境方面)は当面立ち入れないものとして扱ってください。9〜10月の秋のトレッキングを予定している方は、ルートの復旧状況を現地の旅行会社・トレッキング会社に確認してから決めるのが確実です。カトマンズの空港は通常運航です。
参考情報
- 外務省 海外安全ホームページ
- ネパール 安全対策基礎データ(外務省 海外安全ホームページ)
- たびレジ(外務省 海外旅行登録)
- 在ネパール日本国大使館
- ネパール洪水で日本人5人と連絡取れず 死者160人、旅行者の不明多く(日本経済新聞)
- Rescuers search for survivors after Nepal–China floods(Al Jazeera)
- Floods kill nearly 400 people in Nepal and Tibet(NPR)
- Landslide on China-Nepal border engulfs checkpoint(South China Morning Post)
- Nepal flash flood nightmare: What caused it?(EarthSky)
- ネパール中部ラスワ郡及び中国チベット自治区シガツェ市で発生した水害について(外務省)
- ネパールにおける洪水被害に対する緊急援助-物資供与-(JICA・2026年8月28日)
- ネパール土石流 不明の日本人5人の氏名公表 現地当局(毎日新聞・2026年8月28日)
- Japanese family of five believed missing in Nepal flash floods(The Japan Times・2026年8月29日)
- Nepal-Tibet flood death toll rises to 750, officials say(ABC News・2026年8月30日)
- Nepali Army rescues 2,697 people from flood-hit Rasuwa(The Kathmandu Post・2026年8月30日)
- Nepal and China briefly halt rescue efforts as barrier lake overflows(Al Jazeera・2026年8月28日)
- Prithvi Highway reopens following flood disruption(Nepalnews)
- 2026 Nepal Debris Avalanche and Flash Flood(U.S. Geological Survey)
- Glacier collapse that caused Nepal floods is most likely linked to thawing permafrost, scientists say(NBC News)